Drop
スタックを作りましたし,pushとpopもできるようになりましたし,テストまで実装して ちゃんと動くこともわかりました!
リストの後片付けをするコードを書く必要があるでしょうか?技術的には ノーです.全く必要ありません!C++のように,Rustはデストラクタを使って使い終わった リソースを自動的に解放してくれます.Dropという名前のトレイトを実装することで デストラクタを型に与えることができます.Rustではインターフェースをトレイト と呼びます.Dropはこんな感じのインターフェースです:
pub trait Drop {
fn drop(&mut self);
}
基本的には,スコープの外に出たときに後片付けのためにdropが実行されます.
実はDropを実装してある型を含む型に対してはDropを実装しなくてもよく,その
Dropが実装してある型のデストラクタを呼べばいいだけです.私達が実装したListの場合
デストラクタではheadを消せばいいだけですから,何も実装しなくてもBox<Node>
を
消してくれるはずです.全ては自動的に処理されます...が,一つだけ問題があります.
その自動処理はクソです.
こんな感じの簡単なリストを考えてみましょう:
list -> A -> B -> C
list
がdropされるとき,list
はAをdropしようとし,AはBを,BはCをdropしようとします.
不安になってきた人もいますよね?これは再帰なので,スタックを消費し尽くしてしまう
可能性があります!
「これは末尾再帰だから,ちゃんとした言語ならスタックが尽きないようにしてくれるだろ」 と思った人もいるでしょう.それは,実は,間違いです!理由を知るために,コンパイラが 実際にするであろう処理をdropとして実装してみましょう:
impl Drop for List {
fn drop(&mut self) {
// NOTE: 本当は`drop`を明示的に呼ぶことはできません
// 今はコンパイラのふりをしています!
self.head.drop(); // 末尾再帰 - good!
}
}
impl Drop for Link {
fn drop(&mut self) {
match *self {
Link::Empty => {} // おわり!
Link::More(ref mut boxed_node) => {
boxed_node.drop(); // 末尾再帰 - good!
}
}
}
}
impl Drop for Box<Node> {
fn drop(&mut self) {
self.ptr.drop(); // あーっ,末尾再帰じゃない!
deallocate(self.ptr);
}
}
impl Drop for Node {
fn drop(&mut self) {
self.next.drop();
}
}
Boxをdeallocate
した後に中身をdropすることはできません.したがって末尾再帰で
このListをdropすることはできないのです!なのでBoxからNodeを取り出してdropする
反復処理を書かなくてはいけません.
impl Drop for List {
fn drop(&mut self) {
let mut cur_link = mem::replace(&mut self.head, Link::Empty);
// `while let` == 「パターンにマッチしなくなるまでループする」
while let Link::More(mut boxed_node) = cur_link {
cur_link = mem::replace(&mut boxed_node.next, Link::Empty);
// boxed_nodeはここでスコープから外れdropされます
// しかしそのNodeの`next`はすでにLink::Emptyになっているので
// dropは再帰しません
}
}
}
> cargo test
Running target/debug/lists-5c71138492ad4b4a
running 1 test
test first::test::basics ... ok
test result: ok. 1 passed; 0 failed; 0 ignored; 0 measured
いいですね!
おまけ:早期最適化
私達が実装したdrop
はwhile let Some(_) = self.pop() { }
にとてもよく
似ていますし,そう書いたほうが簡潔です.これらの違いはなんでしょうか?
また,リストにint以外を入れた場合パフォーマンスにどのように影響する
でしょうか?
クリックして答えを見る
pop
はOption<i32>
を返しますが,私達の実装ではLink(Box<Node>
)に対する操作を行います.つまり,私達の実装はNodeのポインタを
動かすだけであるのに対し,popはNodeの値をムーブするのです.もしListを一般化してDrop実装済みめちゃデカ型(VeryBigThingWithADropImpl
略して VBTWADI)も入れられるようにしたとき,これは超コストのかかる操作になるおそれがあります.しかし,Boxは内容物のDropをそのまま
呼べるのでこの問題を回避することができます.VBTWADIを入れることこそがまさしく配列ではなく連結リストを使うメリットなので,VBTWADIを
使うときパフォーマンスが良くなかったらちょっと残念ですよね.
両方の実装のいいとこ取りをしたいなら,新しくfn pop_node(&mut self) -> Link
というメソッドを
作り,これを使ってpop
とdrop
を実装するのがいいでしょう.